前回の記事に引き続いて、
カラーコレクションハンドブックを読んで勉強したことを実践したメモを記す。
1.全体的な明度・色・コントラストのバランスを補正する。
2.被写体と背景の区別をつけ、際立たせる。
3."Look"を与える
のうち、今回はStep 2の「被写体と背景の区別をつけ、際立たせる」までを行う。
Grading Training Log from "Color Correction Handbook"; Step 2 from soyoharu on Vimeo.
Step 2の学びポイントは
*被写体の彩度を判断する(ベクトルスコープ、FLATカーブの見方)
*光の強さと方向性、環境と光の色について
*セカンダリーキーとパワーマスクを組み合わせて効果的なマスキングを行う
の3点である。
クリップは全部で7個。
Step1と同じく、GH1で撮影した宮古島映像から。
今回は光の強さ、方向性がよりはっきりしていて、かつメインの被写体がわかりやすい屋内の人物映像を題材とする。
まずは、オリジナルの素材を荒編集して通して観た感想。
「木目のマホガニー色の壁の色が派手すぎて目立つ」ということ。
派手→地味というベクトルでの判断には、コントラストと彩度が寄与している。
このうち、この素材にあてはまるのは特に彩度の高さであろう。
(なぜなら、YC波形では0→100まで使い切っていて、かなり明暗差があることがわかるからだ。実際、失敗素材といっていいほど、ほとんどのクリップで強烈な白飛びが発生している。これは後に白飛びの緩和というカラーコレクションハンドブックからのTipsの実践用にあえて選択した。ということにしておこう。)
概して、GH1の特徴は、今思い返してみるとその彩度の高さだと思う。
GH2(hacked)と同じ題材を撮って比較している映像がちょうどあるので、それを例に出して、映像の彩度の判断方法を学んでいこうと思う。
図0-1.GH1とGH2の比較(実写編)

画角がまったく違うので、本来は比較できないのだが、メインとなる被写体は同じなので、全体の色傾向を見てほしい。
撮影時のフィルムモードは両方ともNostalgicの彩度、コントラストはそれぞれ-2に設定している。
図0-2. GH1とGH2の比較(FLAT)

図0-2はFLATと呼ばれるスコープで、YC波形の上に重ねて表示させることができる。
AdobeのPremiere Pro CS5の場合は、YC波形の窓の上の「クロマ」にチェックを入れるとFLAT表示ができる。
何をしているかというと、各ピクセルのルーマ(輝度)成分(シアン=水色で表示される)に対応するクロマ(色)成分のふり幅を青で重ねて表示したものだ。
単純にシアンのベースに対応する青の帯の幅が広いほど彩度が高く、狭いほど彩度が低くなっている。
GH1とGH2の違いがよくわかると思う。
図0-3. GH1とGH2の比較(ベクトルスコープ)

さて、前回飛ばしたベクトルスコープがやっと今回日の目を見る。
FLATは全体的な大まかの彩度の傾向を見ることしかできないが、こちらのベクトルスコープは各色別に見ていくことができる点で、彩度の調整にはこちらで詳細を見るほうが適しているのかな。
R、MG、B、CY、G、YLの6つに区切られた円の中にピクセルが分布している。
中心から離れるほど彩度が高くなっていく。
また、グラフの形からも特徴を読み取ることができ、輪郭が円に近いほど、カラーコントラスト(色相差)が低く、ヒトデのように枝分かれして6つの色相にまたがっている方が多色づかいでカラーコントラストが高いと見ることができる。
GH1とGH2では、この絵柄の場合、どちらもカラーコントラスト(色相差)は高いが、GH1の方が各色の彩度がより高いことがわかる。
絵柄によって分布はさまざまだが、少なくともグラフの一部は円の中心を通過しているのが普通であり、そこからいずれかの色相方向に大きく偏っていたりすると、色かぶりを疑った方がいい。
ちなみに、人の肌はIラインと呼ばれる、左斜め上から右斜め下に走るライン上に分布する傾向がある。
さて、彩度の見方をGH1とGH2の比較で学んだところで、改めて今回の宮古島映像を見ていくことにする。
今回のStep 2のテーマは、「メインである被写体」をいかに背景から浮き立たせるか、ということをテーマにおいているので、先ほどざっと思いついた「背景のマホガニー色の壁が派手すぎる」という印象を逆手にとって、
被写体自身の持つ高い彩度はそのままに、背景の彩度だけを下げて、彩度差によるコントラストをつけていこうという方向性で考えていく。
【シーン1】
図1-1.オリジナル素材(before)


まず、やりたいことは、ビールの金色(色相は黄色)と背景の机と壁のマホガニー色(色相は赤オレンジ)を分離し、背景の彩度を下げて、ビールの彩度を上げることである。
背景もほぼ単色だし、オレンジを下げて黄色を上げるHSL調整(色カーブ)でできそうに思うが、Primaryのみでやろうとしても、黄色が見た目なかなか変化しなかった。
また、オレンジの彩度を下げるだけでなく、金色を目立たせるためにもう少し青みを足す(=明度を下げる)方向でやろうと思うと、今度はHSL調整でルーマを下げる大幅劣化のわなにつかまってしまう。
そこで、面倒だがSecondaryでビールの部分のマスクを切って、その内側と外側に別々の処理をかけることにする。
まずはColorista 2をクリップに適用する。これは@マスクの外側用となる。
Primary調整でAuto Balanceを適用して軽く色かぶりをとった後、SecondaryのKeyに入る。
図1-2. キーによるマスク作成(外側)

HueとLumaによるフィルタリングでビールを選んだ後、Invert(反転)した。
なお、マスキングの白黒の見方は、「白:適用される」、「黒:適用されない」である。
これに対して、SecondaryのSaturation(彩度)を-30として下げた。
次に、反対にビールの中身に対する作用を行う。
他のソフト、例えばDavinciResolveやAppleのColorなどでは、一度マスクを切ったらその外側と内側に別々の処理が指定できるようだが、Colorista 2の場合は、一度のキーイングに対して一つの処理しか指定できない。
しかし対処法は簡単だ。
エフェクト(Colorista 2@)をコピーして再度重ねがけし、すでに切られているKeying画面に入って、Invertを元に戻して白黒を逆にし、今度は反対にSecondaryのSaturationを+30に上げた。
これをColorista 2Aマスク内側用とする。
気をつけたいのは、コピーしたせいで、Primaryに対する処理が@と重複してしまうので、AのPrimary処理は全て消す方向で。
チュートリアルによると、各パラメータを元に戻したいときはバーやポインタをダブルクリックすれば元に戻ると言ってるのだが、なぜか私の環境ではこれが効かない。
よって、手動で戻すか、もしくはBypass(この場合はPrimaryのBypass)にチェックを入れて、Primaryに施した調整を無効化する。
図1-3. キーによるマスク作成(内側)

ここでもう一つColorista 2の小技。
右下の白黒のclipスライダーによって、黒部分または白部分にブラーをかけることができる。図1-3は、この白のスライダーを左に動かすことによって、よりビールの内側に白い部分が増えているのがわかる。これは便利。
カラーコレクションハンドブックによると、キーを作成したときに、特に高圧縮素材でHueまたはSaturationフィルタを使用していると、エッジにエイリアシングによるギザギザが目立つことがある。
これが目立たない程度になめらかにしてやるのがコツだそうだ。
Colorista 2ではSoftnessの数値を0〜2程度上げてやることで実現できる。(やりすぎはマスキング対象のまわりに不自然なハロ現象が発生するので禁物)
キーを切るとき用の素材を別途用意して、そこにクロマ成分にのみブラーをかけた後にキーイングすることでもこのジャギー問題は解決できるようだが、Premiereでクロマ成分にのみブラーをかけたりすることができるのかどうか、まだ不勉強であるので、とりあえずはSoftness調整でいこうと思う。
さて、シーン1に対する処理は9割がた終わった。
後は、冒頭にも少し述べた「白飛び」への対処である。
光が強すぎて、右上の机の反射部分が完全に飛んでしまっているので、基本的にもう手の施しようはない。
ただし、カラーコレクションハンドブックには「露出オーバーに対する可能な応急処置」という項目が設けられている。露出オーバーになってしまった部分のハイライトコントロールをただ下げるだけだと白からグレーになるだけだが、ここに彩度を少し持った色を持たせてやるのだ。
三たびSecondaryキーの出番である。
図1-4. 白飛び部分のキーイング(ルーマフィルタリング)

クリップに3つ目のColorista 2を適用する。これをB白飛び対策とする。
Secondaryのキーイングに入る。
飛んでしまっているところは、明度(Lightness)によるフィルタリングが一番理にかなっているし、エッジ品質も良い。
カラーコレクションハンドブックによると、フィルムの白飛びの場合は光のハレーションによるグロー効果が起こるそうで、それほど見栄えも悪くないそうな。よって、このグロー効果を模すために通常よりも大きくSoftnessをかけてマスキングのエッジを大きくぼかす。
図1-4にキーによるマスキングの結果を示した。
しかし、ここで、私はこう考えた。机の反射とビールのグラスの反射では、望ましい色が違うし、違う色にした方が自然じゃないか?と
机の反射には午後の暖かい金色の光を与え、でもビールのグラスは硬質な白い光をまとわせる。ビールはきんきんに冷えた感じがおいしそうだし。
これを実現するにはどうすればいいか。
図1-4のマスク結果を見ると、水色枠で囲まれた部分(ビールのグラスの反射)にも白がかかってしまっている。
これをマスクから取り除く方法が、パワーマスク(シェイプ)機能である。
図1-5. パワーマスクの併用によるキーイング結果のアレンジ

パワーマスクとは、フレームの中に任意のシェイプ(Colorista 2の場合は楕円形か矩形)をマスク領域として描く機能のことである。
ここでは、ビールグラスの形にマスクを作成し、Keyのモードを「Key minus power mask」つまりキー領域からパワーマスク領域を除いた。
(図1-5.ではパワーマスクのView Modeを「Show Mask」にして白黒のマスク領域を見せている図になっている)

メモ

ちなみに、Keyのモードには他にもいろいろあって、キー領域とパワーマスク領域の重なったところだけを処理する、キー領域にパワーマスク領域を加える、等いろいろなことができる。
もちろん、キーと組み合わせなくても、パワーマスク単体でマスキングすることもできる。
ただし、Colorista 2の場合はトラッキング機能を単体では持たないので、被写体が大きく動いた場合は手動でマスクの形を追随させるように変えるキーポイントを打っていかないといけない。これは非現実的だ。
AEで使えばこの問題も解決するようだが、私はPremiereベースなのでこれはあきらめるしかない。
話を戻して。
これで、机の光の反射の白飛び部分だけが選択された状態になっているので、ここでSecondary 3-wayのハイライト/ゲインコントロールでイエローオレンジの温かみのある色を少し加えた。
ビールのグラスの部分にはこれは適用されないので、白く残ったままである。
図1-6. シーン1完成(beforeーafter)


FLATとベクトルスコープに注目。
FLATでは、左のマホガニー色の壁と右下の机の木の色の彩度が下がったのがはっきり見てとれる。
また、ベクトルスコープでも赤みの彩度が減って、黄色の彩度が増しているのがわかる。
よりシックな映像だけど、ビールの色がおいしそうに目立つようになったと思う。
【シーン2】
図2-1. オリジナル素材(befre)


例によって背景のマホガニー色の彩度を下げたい。
まずはSecondaryによるキーイングを試みた。
図2-2. 壁のキーイング トライ1

ところが、どうがんばってもここまでしか選べない。
画面左半分の壁はほぼ選ばれている。が、人物の顔の一部もマスク領域に含まれてしまっている。
よって、パワーマスクを併用することにした。
図2-3. キーイング結果から人物部分を除くパワーマスクを作成

パワーマスクを人物のところに設定し、「Key minus power mask」に設定することで人物部分を適用除外させた上で、SecondaryのSaturationを-40に落とした。
ここまではシーン1と同じだ。
しかし、これでは画面右半分の壁の部分がまったくマスクされない状態で残ってしまっており、ここの彩度を落とすことができない。
Colorista 2の重ねがけという荒業に出てもいいのだが、そうしなくても、まだ対処法が残されている。
Colorista 2内部では、キーイング1個につき、パワーマスクは2個まで設定することができるのだ。
それが、Masterタブの中のパワーマスクである。
図2-4. パワーマスク(Master)

Masterタブの中にあるパワーマスクで画面右半分の壁を覆うように設定した。
そして、Master Mask Modeを「Add to Secondary」に設定した。
このときは、Masterでの色補正は一切指示しないことがポイント。
これによって、純粋にセカンダリの設定(彩度-40)をMasterで指定したパワーマスク部分に適用させることができる。
図2-5. 最終的なマスク結果の図示化

図2-5は、photoshopでSecondaryとMasterでの最終的なマスキング結果を重ね合わせて図示したものである。
(切り抜きで微妙に合わなくてふちに黒いのが残ってたり、このあたりは素人ゆえご笑覧ください)
この白い部分に対応する部分の彩度が下げられたわけである。

メモ

Secondaryの場合と同じく、Masterのパワーマスクもモードがいろいろ準備されていて、今回の「add to」のように純粋にセカンダリーの拡張として使う以外にも、Masterに設定した色補正項目をパワーマスク部分に調整したり、それとSecondaryの結果をMixしたり、いろいろできる。
が、ここは概念的に説明できるほどまだ理解できていないため、とにかくもう少し触ってみて実地で理解するしかない。
図2-6. シーン2完成(beforeーafter)


【シーン3】
図3-1. シーン3完成(beforeーafter)


【シーン4】
図4-1. シーン4完成(beforeーafter)


【シーン5】
図5-1. シーン5完成(beforeーafter)


【シーン6】
図6-1. シーン6完成(beforeーafter)


【シーン7】
図7-1. オリジナル素材(before)


最後のシーン7は、他とは少し毛色の違う、風景映像である。
それまでは白飛びするくらい日が差していたのだが、風景を撮るときにかぎって曇ってきた。
幸い青空は残っており、映ってはいないが太陽だけがうっすらと雲に隠れている状態だと思われる。
これを、なんとか日差しの下で撮影したような映像に見せたいという意図をもった。
まずは、Primaryで彩度を上げ、記憶色表現を試みた。
図7-2. Primary調整

3-wayのAuto Balanceで色をニュートラルに近づけて、全体の彩度を10%上げた。
後は絵を見ながら、HSL調整(色カーブ)で、黄色い花の彩度を上げ、空と海のBとCyの彩度を上げ、少し明度を下げて深みを出した。逆に、緑は少し彩度を戻した。
彩度が増したことで、太陽の光の強さ(光源は映っていないが)に照らされた感じを表現した。
ただ、これだけでは不自然だ。
窓の内側のテーブルへの映り込みの色が寒すぎる。
太陽が差しているなら、もう少しあたたかみのある光り方をするだろう。
ここで使ったのが次の図7-3のようなマスキングである。
図7-3. テーブルへのパワーマスク

(今度はSecondaryのパワーマスクのview modeを「show red overlay」にして実写映像と重ねてみた。)
ちょうど、光が差していると思われる、室内のテーブルから屋外の白いテーブルセットのあたりまでを帯状に矩形で選択した。
そして、まずは中間調でオレンジを足した。これは屋外の白いテーブルセットと同じ位置にある植物への光の色に影響している。
次に、室内のテーブルへの反射だが、こちらはおそらく角度的に空の色を反射していると思われるので、あまりオレンジにしてしまうと不自然になる。よって中間調よりはオレンジを控えめにした。
最後に、光の強さを表現するために、ハイライト/ゲインを少し上げた。これによって室内のテーブルの反射が強くなった。
図7-4. シーン7完成(beforeーafter)


このシーン7のようなのは、やっていて楽しい。
光に対する観察力、感覚の記憶を最大限に発揮しながら、色を載せていく作業。
さぁ、ここまでで十分なようにも思う。
Primaryで色を整え、Secondaryで画面から被写体を浮かび上がらせた。
ちなみに、今回はあえてマホガニー色の壁の彩度を下げて人物の彩度を保ち、そこに控えめなコントラストを出すようにした。
だが、オリジナルのつやのあるマホガニー色の壁はそれはそれで生き生きした映像であるようにも思う。
どういう方向性で映像に「力」や「ムード」を与えていくか。
特別な色を使わなくても被写体を際立たせることを考えてSecondaryをうまく使うことでこんなにも表現ができる。
私にとっては、このStep2の過程が今けっこう楽しい。
さて、次回はいよいよStep3の"Look"の作成。